『ナッキンポックルの赤い花』           (一九七八年作品) 【NATCKING-POCKLE: ナッキンポックル】  それは、5年に一度赤い花を咲かせる植物。  学名「ナッキンポックル科ナッキンポックル属ナッキンポックル」。  線状または波針形で平行脈の葉をもち、花は両性で大きく、花弁三枚、咢三枚で共に同様の色をしている。単立または総状に付いている。雄の芯にT字形の葯がみられる。鱗茎は球形でやや黒に近い燃えるような赤色をしている。  南半球では鑑賞に用いられるが北半球の、それも極地点に近いアラスカの最北端海岸では食用に用いられることもある。 そのルーツは古く「日本花様日誌」にも「この咲たる深紅の花を愛でて、愛を語らうはまたいとおかしけれ。夏金亡栗ははてにも苦し、南蛮の華ゆえか。」 と、書かれているように「夏金亡栗」つまり「ナッキンポックル」は古く蝦夷北地区(現代の北海道)の稚内辺りに自生していたらしい。  その渡来の経路は未だつかめていないが、地球大陸説(大陸移動説)を証明する有力な植物の一つとしても位置付けられている。  しかしその花びらに関しては更に興味深く、先の文献にもその真っ赤な花弁に関して触れられていない重要な特徴がある。その5年に一度花を咲かせると言うナッキンポックルの花が、約7日間の生命を閉じて散った後には深緑の実ができる。その実を食べると、そのあまりの辛さに身体中に激痛が走り、三日三晩その辛さを癒すために水を飲み続けることとなる。その水量の激しさから溺死と同じ状態となり、ついには窒息状態で死に至らしめられるといわれている。  アジア一体に自生していたが1930年代の世界的「赤刈り」で根絶状態に追い込まれ、現在ではレッドデータに記録される植物の一つとなった。  花弁に暗い紫色の斑点があるあたりは一見、オニユリと見間違う。生命力は強く、一度根を下ろすと雑草のように繁殖する。ただし太陽の日や暑さに弱く、特に「ひまわりの種」を蒔くとすぐに枯れてしまう。高さは1メートルまで成長する例も珍しくない。5年に一度、情熱的に咲くその花は初夏に開花し、7日間で花を散らせる。真夏にその実を収穫できるが、まだその実を食べて溺れ死んだという話は聞かない。  もっとも、その実を梅干しと一緒に塩水で15分程煮込むと、その毒(灰汁)が消え、美味しく食べられるという。                 [完]     Copyright 2000 (C) office KAWA